仮の宿

日々思ったこと、過去に別のところで書いていた記事を載せていきます。

U-25の会 vol.1 クルミドコーヒー店主影山さんを囲んで

「大学以外で若者がなんでも話せるコミュニティがあったらいいのに」

 

上田市内でインターンまたは働いている現運営メンバーが初めて顔を合わせた時に、そんな話をしました。

 

そして出たのが次の一言

「クルミドコーヒーという東京のカフェで朝モヤというイベントをやっていて…」

 

参加者が話し合うテーマ決めからするという企画があるらしい。

そして「朝モヤ」という名前の通り、結論は出ずにモヤモヤして終わることもある。

そんな会。

 

「面白そう」

 

そしたら話は急展開。

 

去る10月4日(日)

クルミドコーヒー店主で、『ゆっくり、いそげ』の著者でもある

影山知明さんがNABOにやってきてくださった。

 

中央で手を組んでいるのが 影山知明さん

 

 

 

「その日の夜は空けておくので、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ(笑)」

と、笑顔で上田に来てくださった影山さん。

 

その場に集まったのは総勢11人。

影山さんの著書『ゆっくり、いそげ』を読んだ人もそうでない人も

その時間に「NABOに行こう」と思った偶然で出会った11人です。

 

 

 

最初は自己紹介、

本を読んでの感想などを一人一人が自分の言葉で話していくところからスタート。

 

影山さんも時折メモを取りながら

真剣に参加者一人一人に向き合っていきます。

 

最後に影山さんの自己紹介。

「なぜこの本を書いたのか」という話から始まりました。

 

「最初はカフェをやるつもりなんてなかった」と言いながらも

「スタッフへの遺書のつもりで書きました」と一言。

 

カフェという「場」を運営していく中で気付いた多くのこと。

地域のため、未来の子どもたちのために、この店が50年続くような場でなければならないと確信した影山さん。

 

「これを読んで、『この店なら引き継ぎたい』と思ってもらえれば」

 

影山さんをそこまで急き立てたものとは。

それは多くの人が資本主義という大きなシステムの中で思考停止してしまっている現状。

 

「お店が大きくなっていくと当然ながら自分一人では背負えない部分が出てくる。

だんだん目先のことに追われるようになって、今月の売り上げに目が向くようになる。

でも、『それを求めているのは誰なんだろう?』という疑問が出てきたんです」

 

この話は『ゆっくり、いそげ』の中では、「駅前がチェーン店ばかりになる理由」という小節で触れられています。

「儲かる方」と「やりがいのある方」の二つがあった時、

個々人としては誰もそれを是とは思っていないのに、目先の安定性にとらわれて

前者を選んでいることが多いという影山さん。

「システムのオペレーターなんですよね。それにどこまで抗えるか、『自分が何をやりたいのか』」

 

そこに想いを向け、問い続けるのがクルミドコーヒーというお店。

 

今回自身が出版した「本」という媒体についても同じように言及されていました。

 

「今では1日に200冊もの本が出版され、書店に届く。その中からお客さんの手に届いて、

何年も愛されるような作品はどれだけ生まれるのだろう…と思うんです。

時間をかけて届ければ、届いたかもしれないものもあるのではないか。

だから、どんどん本を消費するのではなくて「育てる」気持ちを大事にしようと思って」

 

影山さんは「クルミド出版」という出版社名で

書き溜めた文章をどう発信していくか悩んでいる人々の想いを形にして、世に送り出しています。

印刷、製本も時間をかけて手作業で。

この創り上げる過程からも作品を「育てる」という影山さんの姿勢が感じられます。

 

影山さんはこうして、多くの人の「こうしたいな」という想いに寄り添ってきました。

これがクルミドコーヒーの「支援する」姿勢、です。

一人一人の、その人なりの創造力や「こうしたい」という想い

それを「ファンタジー」と、影山さんは呼びます。

その対極、巨大なシステムを前に何も考えなくなることを「虚無(nothing)」である、と。

 

同著の中でミヒャエル・エンデの『はてしない物語』に触れながら

コラムが書かれているので、こちらも是非。

 

すると参加者から

「巨大なシステムの中にいると確かに違和感を抱くが、システムに沿っていかざるをえない」との声が。

「ファンタジーも分かるよ。だけどね」という本音。

それでも「これまでの自分の生き方を振り返るきっかけになった」と気付きがあった様子で、

影山さんも「システムの構造の上にいけばいくほど、そんな違和感にすら気付かなくなってしまうから」と一言。

 

同著でも触れられている『贈与論』の話になると、ギフト経済にまで話はおよび

「お金を使うのはいいんですよ。でも使う人が悪い。

その動機づけが大事だと思います。

お金は人の仕事を受け取るための道具。

『いい時間を過ごせました。ありがとう』を表現する手段」

そうすることで仕事の動機づけも変わるのではないかと、影山さんは言います。

 

「日々のこうした「交換」をもっと丁寧にしていきたいですね」

そう言って、クラウドファンディングなどを例に支援的な姿勢のお金のやりとりを説明しながら

「いつかマイナス金利金融商品とか、扱ってみたいんですよ」

と笑顔で言われ、思わず参加者も「え!?」と驚きのリアクション。

 

 

マイナス金利ということは1000円出資しても、

戻ってくるのは900円だったり500円だったり、1000円未満の額ということになります。

その額面上のマイナスを、たとえば地域の就業支援であったり、

そういった別の価値でプラスにしていけたら、と話す影山さん。

「これまでどこもやってないですよね」

 

「クルミとの出会いは?」という質問に対しては

実はクルミドコーヒーで「贈る」、ギブの姿勢を体感するために実施されている「マゾ企画」で

提供されていた「くるみ餅」は前山寺のくるみおはぎからヒントを得たのだという

秘話が暴露されたりもしました。

 

そして肝心の、店名にもかかげられているクルミとの出会いとは?

同著にも登場するカフェ マメヒコの井川さんに言われた言葉がきっかけだといいます。

 

「井川さんに好きな食べ物を聞かれて、最初『とうもろこしと天津甘栗』って答えたんですよ。

それで『他にもないの?』と聞かれて、出てきたのが

フルーツグラノーラ、クルミパン…

『全部かじるものばかりだね』と言われて、ハっとしましたね(笑)

『見た目もネズミっぽいし、小動物が木の実をかじってるようなカフェにすれば?』

と言われたのが最初です。」

 

Mr.Childrenの楽曲「くるみ」にも言及していました。

「あれって女の子の名前じゃなくて『これからくる未来』で『くるみ』なんですよね」と。

 

また今回のイベントのきっかけにもなった「朝モヤ」という

日曜の朝にクルミドコーヒーに集った人が話し合う議題決めからスタートし、

結論が出ないままモヤモヤして終わることもあるという対話の場についての話になると

「傾聴し、違いを楽しむ」という朝モヤのスタンスにこんな質問も。

 

「人の価値を受け入れられない人はいないんですか?」

これに対して影山さんは「確かにいますね」と一言。

「そういう方の多くは「意見」と「人格」がごちゃまぜになってしまっているのだと思います。

「意見」としては違う見解を持っているけれど、それによって意見を言った人自身を否定する必要はないはずです。

意見の異なる相手を説得するのではなく、やはりここでも支援の姿勢が大事なのだと思います」

相手の「こうしたいな」という想いに目を向ける姿勢が対話の場面でも役立つんですね。

 

また、対話を通してコミュニティを形成していく中で

「『私』が『私たち』になるために必要なことはなんですか?」という声もあがりました。

影山さんが最初は一人だったところから

カフェ マメヒコの井川さんに出会い、スタッフの方々に出会い…

そうして利用しあう関係ではなく、支援しあう関係を構築していった先に

「誰かに言われたから」「組織のため」ではなく、

自己意思にもとづいてクルミドコーヒーに関わるようになっていく過程。

それを「『私』が『私たち』になる過程」であると影山さんは言います。

「一人ひとりが別にクルミドコーヒーのために存在しているわけではない」という文中の言葉も印象的です。

 

「やはり上田という「地域」で単純にくくるのではなく、自己決定のもとに集まることが大事なのだと思います。

あともう一つはファンタジーの部分。「議題のない対話」が重要なのではないでしょうか。

クルミドの朝モヤのようなカフェ的な対話の場。

成果をはっきりさせすぎてしまうと苦しいですし、関わっている人を手段化してしまう気がします」

 

 

 

この話は次の「川上さんのビーフシチューの話に感銘を受けた」という参加者の言葉にもつながっていきます。

「ビーフシチューを作っていたスタッフが抜けることで、何かが失われる。

レシピは残っていて、存続可能だったのに、そのスタッフがいなくなってしまうからやめる…。

この話を読んだ時、『それでいいんだ』と思えたんです。

これまで自分でお店づくりをしていくなかで、自分が持っているものが失われていくような感覚があったので…」

 

思わず涙ぐむ場面も。

うんうん、と深く頷きながら参加者の言葉に耳を傾ける影山さん。

 

「まあ、その年の12月の売り上げはすごい落ちましたけどね…。

やっぱりバランスなんだと思います。

全てを属人的にやっていればいいというわけでもなくて、

在庫管理など、ちゃんと仕組みづくりをしていかなきゃいけない部分もある。

勝負するとこ、しなくていいとこ。そこの見極めですね。

例えば人が足りないと、個人がやりたいことを重んじてあげられなくなってしまうので

第一に稼ぐことが大事。だから価格設定ではしっかり勝負にでます。

志とお金って楕円のようで、行き来を繰り返すうちに軌道が大きくなっていくものだと思っています」

そうしていくうちに出来ることも増えていくんですね。

 

また「今までで1番面白かった朝モヤは?」という問いに対しては

深く考えてから「1週間後に地球に隕石がぶつかるならどうするか?今の仕事を続けているのか?」という実際にあった議題を答えてくださいました。

「そしたら『ここ(クルミドコーヒー)に来ます』というお客さんがいて驚いたんですけど、自分でも

『うちだったらやるなあ…』と納得してしまいました(笑)」

お客さんに「クルミドコーヒーならやっているだろう」と思ってもらえること自体が嬉しいそう。

 

「お店は表現する場なんですよね」と、支援する姿勢と店づくりの話では言及。

「最近どう?」という問いかけからスタッフの「やりたい」という想いに応えていくのが影山さんのスタイル。

「やりたいことをやる時間が通常の業務時間に上乗せされる形だと辛いので

その分、他のシフトを抜けられるように調整したりしますね。

あとはイベント企画だったら、最初の集客はサポートします。

せっかく企画しても参加者が少なかったら辛いですから。

それで1回やってみると、どんな形であれ、反省点・改善点は出てくるので

「次こそは」と、次の一歩を踏み出せるようになるんです」

 

人との寄り添い方については「Sympathy」と「Empathy」の二つを挙げ、

前者は他者と自身の境界を持った状態での共感

後者は「その人自身になる」寄り添い方だといいます。

「後者ができるようになると楽しい」と影山さん。

「私はその人自身になっているので相手にとっては「評価されない」という安心感が生まれます。

自分としては色んな人の人生を生きているような感覚になれるので面白いですよ」

 

そうやって、影山さんが「その人自身になって」寄り添った人の一人が同著の表紙のイラストを描いているといいます。

「3年前に出会ったとあるスタッフが、面接中にずっと泣いていたんです。

何を聞いてもずっと泣いていて。それでも一言「自分の心に真っ直ぐでいたくて」と、言ってくれて」

 

そして今回、表紙のイラストをお願いしたのだとか。

 

 

「すっと寄り添ってくれる、肯定してくれるような絵ですよね。

頑張りたくても、頑張れない人が一歩踏み出せるように、という想いがあって。

世の中には「強い人」と「弱い人」のどちらかしかいなくて

みんながみんな、いつも頑張れるわけではないから」

 

その言葉に、じっと表紙を見つめる参加者の方々。

ここでの対話を通して、「自分の心に真っ直ぐでいること」をそれぞれが考えているように見受けられました。

 

こうして、U-25の会 vol.1は終了。

ゲストに来てくださった影山さん、ご参加いただいた皆様

本当にありがとうございました!